千種×めぐみ妄想小説

 今日はファン感謝デー。入場客の投票によって対戦カードが決まる仕組みだ。
 あたしの対戦相手は千種。タイトルマッチやリーグ戦といったしがらみのない対戦はいつ以来だろうか。自分自身が観客気分で今日の試合を楽しみにしていた。
 といっても、お祭り気分で浮かれるわけにもいかない。なぜなら、敗者は勝者の言うことを何でも一つ聞かなければならないからだ。さっきの試合ではレイ先輩が南先輩をセコンド(金井先輩とちづる先輩)の力を借りて破り、バニーガールの格好をさせていた。
 もちろん、千種に勝ったところでそんなバカな真似をするつもりはない。せいぜい、今度の休みのショッピングに付きあわせるくらいだ。千種も同じ気持ちだろう。とにかく全力でぶつかるだけだ。

 しかし、今日の千種はいつもと様子が違っていた。普段使わないラフプレーや凶器まで使って勝ちを狙ってくる。ペースを乱されたあたしはバックドロップホールドをくらい、3カウントを聞くことになる。

 千種への声援とあたしへの罰ゲームに対する期待の声が入り乱れる中、千種がマイクを持ちあたしの前に立つ。その目はいつもの温和な千種のものではなかった。冷徹な瞳があたしを刺す。
「わたしの勝ちね、めぐみ。…罰ゲームの覚悟はいい?」
 イベント試合ということでヒールの真似事でもしているのか。こんな冷たい千種の声は初めてだ。
「分かってるわよ。何をすればいいの?」
 ぶっきらぼうに返すあたしの様子に満足したのか、千種は邪悪な笑みを浮かべる。いいかげんドッキリなら勘弁して欲しい。
「…そのスカートの下を見せて頂戴。もちろん、自分からめくってね。」

 一瞬の空白。
「…は?」
 言葉の意味が理解できず、間抜けな声を上げて聞き返す。
「聞こえなかったの?スカートをめくって、その下を見せてって言ったの。」
 呆れたように千種が繰り返す。表情は変わらない。
「ば、バカなこと言わないでよ!そんなことできるわけないじゃない!」
 あたしの反論に千種は小首をかしげる。仕草だけはいつもの愛らしい千種だ。
「あれー?めぐみはわたしに負けたくせに、今日のルールを破るつもりなのー?」
 わざと、いつもの口調で観客を煽る。観客からは千種を指示するコールが起きる。
「分かったわよ、見せればいいんでしょ!見せれば!」
 ここで逃げたら、あたしのプライドが許さない。スカートなんて言っても下は同じ素材の水着だ。下着を見せるわけでもないし、第一、試合中に何度も見せているわけだから恥ずかしがる必要なんてない。
 覚悟を決めたあたしはスカートに手をかけ、そろそろと持ち上げる。
「おおっー!!」
 会場中からどよめきが起きる。
「…っ!」
 自分から見せるという行為に、いまさらながら恥ずかしさがあたしを襲う。おそらく今のあたしの顔はコスチュームの色よりも赤く染まっているだろう。
「お客さんみーんな、めぐみのいやらしい格好に釘付けになってる。」
 千種の言葉に全身が熱くなる。会場中の視線があたしを嘗め回すようにまとわりついているかと思うと、鼓動が激しくなる。
「も、もういいでしょ…。」
 口調は平静を装っているが、あたしは千種に懇願する。
「ダメよ。わたしがいいというまで手を離さないでね。」
 見透かしたように、クスクスと千種は首を振り、リング下からチェーンを持ち出す。
「めぐみはいい子ね。わたしの言うことは何でも聞いてくれるんだもの。」
「…罰ゲームなんだから仕方ないでしょ。」
 変わらず黒い笑顔で近づく千種に、毒づいてみせる。しかし、目はチェーンから離れない。
「そんなモノ持ち出してどうするつもり?」
「前から不思議に思ってたんだ。めぐみったらどうしてこんな首輪なんかしてるのかなって。」
 言うや否や、首輪のリングにチェーンを掛ける。
「ははは、めぐみにピッタリ。犬ね、わたしの犬よ。めぐみは。」
 チェーンを掛けられた挙句、犬呼ばわりをされ、あたしは惨めさで一杯になる。
「い、いい加減やめて…千種。」
 羞恥と悔しさで泣きそうになる。それでも、けろっとした表情で千種はあたしを見る。
「どうして?めぐみはわたしにこうして欲しかったんでしょ?」
「何を…バカな…。」
「だって、こんな恥ずかしい命令されてるのに、めぐみったら笑ってるんだよ?」
「…っ!?」
 ガツンと頭を殴られた衝撃。そんな訳がない。大勢の前でこんな格好をさせられて笑っているなんて…。
 いや、分かっていたんだ。ずっと頬に感じる引きつった感触。
 
 …あたし、笑ってる…。千種の言うことに従って悦んでる…。

「突っ張っているけど、めぐみは心の奥では誰かに支配されたがっている。」
 千種の言葉があたしの耳に、心に沁みる。
「そして、めぐみが望んでいるのはわたし。わたしだけがめぐみを好きにできる。」
 あれだけうるさかった観客の歓声も聞こえない。
「わたしの声だけを聞いていればいいの。それがめぐみの一番の幸せだから…。」
 千種の言葉が心地よい。
 すべてが白く染まる世界で、あたしは千種にすべてを委ねた…。


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