ボンバー来島の乱 1 ~そんな所~

「祐希子選手、3回目の防衛おめでとうございます!」
「はい!ありがとうございます!」

 クリス・モーガンとのIWWFヘビー級タイトルマッチ。激闘の末、見事防衛を果たしたマイティ祐希子は選手控え室で祝勝会見を開いていた。祐希子の周りにはボンバー来島をはじめ、武藤めぐみ、結城千種ら新女の選手たちが祝杯をあげている。

「30分を超える激闘でしたが、クリス選手はいかがでしたか?」
「強いよ、間違いなく。パワーもスタミナも超一流の相手だから。」
「20分過ぎにポセイドンボンバーを受けた時は、正直危ないと思いましたが?」
「そうだね、正直その辺記憶が飛んでるから。最後は意地、それだけだったね。」

 祐希子へのインタビューが続く中、周りの選手はすっかり宴会騒ぎだ。気付くとビールもジュースも残り少ない。
「おい、誰かビール持って来い!」
 来島が叫ぶものの、お祭り気分の若手の耳には入らない。
「ったく、しゃーねーなー。」
 頭を掻きながら、来島は売店へビールを取りに控え室を出る。

「カオス、市ヶ谷、モーガンと世界屈指のパワーファイターを倒してのV3、改めておめでとうございます。」
「ありがとう。」

「早くしねえと、祝勝会が終わっちまうぜ。」
 ビールケースを抱えて廊下を進む来島。その視線の先、控え室の入り口に見慣れた選手が立っていた。
「南じゃねえか。そんな所に突っ立っていないで、中に入れよ。」
 関節のヴィーナス、南利美は冷ややかに一瞥すると記者会見を受ける祐希子に視線を戻す。
「それはこっちのセリフよ。あなたこそ、こんな所で何をしているのかしら?」
「何って、見てのとおりビールをだなあ…。」
 抗議しようとする来島をよそに、祐希子へのインタビューは続く。

「今後の防衛ですが、カオス、メガライト、ハン…。世界各団体のトップがIWWFのベルトを狙ってくると思います。プレッシャーが厳しくなると思いますが、どうでしょう?」
「このベルトがある限り、一流の強敵と戦えるのだから、簡単に手放すつもりはありません!それに、挑戦者は世界だけじゃないし。」
「と、言いますと…。」
「めぐみや千種もタッグだけじゃなく、シングルでも実績を残しているから充分にチャンスはあると思う。」
「そうですよ、私たちにも挑戦させてくださいよ~!」
 めぐみが祐希子の頭の上からビールを掛ける。
「バカ!冷たい!やめろって!」
「あはは。戦ってくれるなら、やめますよ~。」
 千種はジュースで後に続く。
「こらあ!ジュースはやめなさい!うわ~ベタベタするぅ~。」
「わ、私が舐め取ってあげます!祐希子さん!」
「だあー!菊池まで!話の邪魔するなー!!」
 酔っ払いを追い払い、一息つくと話を続ける。
「利美はあまりベルトに関心はないみたいだけど、本気で狙っってきたら怖い相手だし。龍子やソニックにしたって、挑戦してきても不思議じゃないでしょ。」

「…?」
 祐希子の言葉に、来島は引っかかりを覚える。
「何だ?この気分…。気味が悪ぃ…。」

「なるほど、国内にも強敵ぞろいってことですね。そうだ、次の挑戦者は市ヶ谷選手とのことですけど、一言お願いします。」
「この前やっつけたばかりなのにあの高飛車女、また割り込んで来やがって!今度こそ絶対、ぶっつぶしてやるから!いい?もうあんな奴の名前を口にしないでよね!」
「は、はい!ありがとうございました!」

 インタビューが終わり、記者達が控え室を出る。南も来島に背を向ける。
「お、おい。南…。」
「チャンピオンに名指しされた以上、準備だけは整えておかないとね。それじゃ、おやすみなさい。」
 一人ぽつんと廊下に取り残される来島。
 と、その姿に気付いた祐希子が手を振る。
「こら、恵理ー!そんな所で何やってんのよ!二次会行くよ、カレーパーティー!」

 無邪気な祐希子の言葉に、来島の足が止まる。
「何って…俺は…。」
 ほんの数メートル向こうの祐希子がやたら遠くに感じる。
「ちっ、どうしちまったんだ?俺…。」

「大丈夫、恵理?ほら、さっさと行くよ!」
 気付くと祐希子は来島の左腕に抱きついている。
「ビールは菊池に持たせとけばいいからさ。」
 祐希子はビールケースを奪い菊池に渡す。そんな~と抗議の声が上がった気もするが軽く無視する。
「ああ、分かった。…って、お前まだリンコスのままじゃねえか!それに何だ?オレンジ臭ぇ!とっととシャワー浴びて着替えて来い!」
「はあ~い。あ、みんなはいつもの店に先に行ってて。逃げちゃだめよ、チャンピオン命令だから。」
 若手の悲鳴を背に、更衣室へ消える祐希子。

「まったく、あいつは…。」
 いつものやり取り。いつもの会話。浮かんだ苦笑いが、祐希子から自分に向けられる。

「だめだ、胸のモヤモヤがおさまんねぇ…。」

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