ギルティ美鷹小説 ママの昔話 3

 男と結ばれた美鷹は、やがて女子プロレスを巡るビッグマネーに絡んだ政治的陰謀に巻き込まれることとなる。
 死と隣り合わせの日々ではあるが、男との逃避行は充実した毎日でもあった。
 だが、そんな生活に異変が生じる。美鷹の体調不良だ。裏世界の医者から診断を受けた美鷹は男に報告する。
「あなたと私の赤ちゃんよ。」
「俺の…子ども?」
 妊娠の報告に男は飛び上がって喜ぶ。だが、同時に決断を迫られることとなる。
 今の生活では妻はおろか、お腹の子どもの命も危ない。
 男は美鷹を自分の実家へ預けることとした。地元の名門である男の実家は各方面に顔が利き、護衛も完璧である。妻と子を守るにはうってつけの場所であった。
 実家も喜んで美鷹を受け入れた。軍隊に入ると言って飛び出した息子が、別嬪さんを嫁としてつれてきた。しかも孫のオマケ付である。親戚一同集まっての大騒ぎとなった。

 狙われの身は美鷹だけではない。男は一人、家を離れることを決める。
「ごめんなさい、あなた。私のせいで、あなたに危険な思いをさせてしまって…。」
 うつむく美鷹に男は笑顔で応える。
「何を言ってるんだ、美鷹。お前はこれから大切な戦いが待っているんだ。それに比べれば俺の戦いなんか子どものケンカさ。」
 別れを惜しみながらも、美鷹は夫にうなずく。
「必ず無事に帰ってきてね、パパ。」
「パパ…か。悪くない響きだ。」
 満面の笑顔で、男は旅立った。

 美鷹は夫の実家で大切に扱われた。一つの場所に落ち着く生活は正直むずがゆく、夫の不在に眠れぬ夜もあった。だが、日に日に大きくなる自分のお腹を見ると、幸せで胸がいっぱいになる。
 月日は流れ、美鷹は無事に女の子を出産する。小鳩と名づけられたその子を育てながら、美鷹はトレーニングを再会した。いつか夫が迎えに来る日のために。

 出産から一年。別れた時と同じ笑顔で男は帰ってきた。久しぶりの再会に喜び合う二人。
「お、この子が俺の子どもか。ほ~ら、パパですよ~。え、えーと…?」
「小鳩よ、パパ。」
「そうか、小鳩か。いい名前だ。きっとママに似て美人になるぞ。」
「もう親バカなの?」
「ああ、バカだ。家族のためなら、俺はどんなバカにでもなってやるぞ!」
 男は小鳩の顔を見て決意する。美鷹も同じ意見であった。
 三人で旅に出る。もちろん、未だに命を狙われる危険な旅だ。当然、実家は反対した。こんな赤ん坊を連れて行くつもりか。息子はともかく嫁と孫を危ない目に遭わせるわけにはいかん、と。
 しかし、二人の気持ちは変わらない。
「家族だから、一緒でなければ駄目なんだ。」
 息子の言葉に、実家も折れるしかなかった。

 刺客として世界を飛び回っていた自分が、夫と出会い二人旅となり、今度は娘も連れて三人の旅となった。
 苦しいことも、危険なこともあるだろうけれど、三人ならば大丈夫。世界はもっと楽しいことに満ち溢れているに違いない。
 
 美鷹の瞳は、希望に輝いていた。

***

「小鳩もパパみたいな素敵な人に出会えるのかしら。」
「小鳩はかわいいから、大丈夫よ。」
「駄目だぞ、小鳩は嫁になんか出さないからな。」
「あ、お帰りなさい、パパ。」
「ママを追いかけまわして、無理矢理自分の物にしたのによく言うわね。」
「違うぞ、ママがパパにベタボレだったんだ。」
「はいはい、そうですね。ウフ♪」
「男の人って大変なのね。イヒ♪」
 家族三人が揃い、いつもの笑顔に包まれる。

「小鳩、パパとママの子どもで本当に幸せよ。」

***

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