ドラクエⅢ小説 その1「疑惑」

 遊び人きんさんは勇者のおしりをさわった!

「きゃっ!何するのよ!」
 勇者の叫び声と同時に、平手がきんさんの頬に飛んだ。
 その光景に戦闘中の女戦士アイリスも戦闘を手を止めて目をぱちくりさせていた。幸い、冷静な女僧侶シンシアのニフラムの呪文で事なきを得たが、とにかくパーティは一児混乱した。
「何だよお前、ちょっとした冗談じゃないかよ。男のくせにちょっとケツ触ったくらいで…。ん?待てよ、この感触…お前、女じゃねーのか?」
 ガツン。
 今度は鉄の盾がきんさんに飛んだ。危うく世界樹の葉か教会の世話になるところであった。何しろシンシアはまだザオラルも覚えていないのだから。
「ふざけたこと言うな!オレは男だ。もしまた同じこと言ってみろ、置いていくからな!」
 勇者は顔を真っ赤にして怒る。
「俺もこの道20年、5歳からこの道(遊び人)を極めてきたんだ。間違いねぇ、この手に残った感触は確かに女のものだ。」
 何の自慢か分からないが、きんさんも遊び人のプライドに賭けて一向に退かない。
 勇者は次に剣を振り上げた。
「ま、待て、落ち着けよ、おい!」
 慌ててアイリスが勇者の右腕を抱える。
「は、話してくれよアイリス、こいつはオレを侮辱したんだ。」
「でも本当のところ、どうなの?」
 きんさんにベホイミの呪文をかけていたシンシアが問いかける。
「まさかシンシアまで疑ってるのか?オレのこと…。」
「そうじゃないわ。でも、確かにあなたは普通の男性とは違う女性的な面が多いもの。」
「そういやそうだな。街の宿で風呂に入る時もきんさんとは別だし。」
 アイリスも疑問を口にする。
「そうだぜ、寝る時も別々の部屋を取るし。男同士で何を恥ずかしがっているのかと思ったが…。」
 きんさんもダメージを回復してもらい、口が回るようになった。
「それに、あなたの強さには何か悲しさ、そう哀しさが感じられるわ。お父さんを亡くしたというだけではなく、どこか無理しているような…。」
「そうだな、お前いつも寂しそうな顔してるものな。親父の敵を取って世界を守るっていったら、もっと意気込んだ顔するもんだぜ。」
 シンシアの言葉にアイリスも口を挟む。
「……。」
 振り上げた勇者の右腕が力なく垂れる、剣を鞘に戻すと、きびすを返してぽつりとつぶやく。
「ここで話もなんだ…。少し先に街がある。そこで…。」
 少しかすれた声。泣いていたのかもしれない。しかし、誰も勇者の顔を見ることはできなかった。
 ドムドーラの街まではほんの十数分。ただ、明けない夜、どこまでも続く砂漠のせいか、わずかの道のりは何時間もの長さに感じられた。誰も口をきかなかった。遊び人のきんさんもただ黙々と歩き続けた。
 パーティが良かれ悪かれ確かに変わる。4人ともそう感じていた。

***

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