ボンバー来島の乱 6 ~祐希子戦~

 ついに迎えた、マイティ祐希子VSボンバー来島のIWWFヘビー級タイトルマッチ。満員御礼となった会場中心のリング上には、ボディチェックを済ませた祐希子と来島がにらみ合っている。
 祐希子は体のハリも良く、心身ともに調子を取り戻したようだ。その顔には笑みすら浮かんでいる。
 一方、今シリーズ絶好調の来島もまた、勢いを持続したまま今日という日を迎えていた。
「へっ、やっといつもの顔に戻ったみたいだな。これで遠慮なくぶっ潰せるってもんだ。また、泣きべそかかせてやるぜ。」
「遠慮なんかしてたら、そっちが泣くことになるわよ。」
 来島の挑発を祐希子が受け止める。
 
 互いにコーナーへ戻る。来島のセコンドには南がついていた。
「まさか、あなたに先を越されるとはね。」
 南が声を掛ける。
「おまえの一言のおかげさ。あれがあったから俺はここまでこれた。サンキューな。」
 笑顔で応える来島に、南は肩をすくめる。
「余計なことは言うもんじゃないわね。タイトルマッチだっていうのに、にこにこ笑ってるし。」
「ああ、楽しいぜ。祐希子と、こんな大舞台で戦えるんだ。楽しくって仕方がねえや。」
 まるで、遠足当日の子供のようだ。
「…妬けるわね、まったく。」
 私もベルトに挑戦してみたくなるじゃない。来島の笑顔を見ながら、南は言葉を飲み込んだ。
「時間ね、せいぜい頑張ってきなさい。」
「ああ、出し惜しみなしの全力だ!」

 カアアァァァァン!
 ゴングと同時に、来島はダッシュで突っ込む。祐希子も逃げることなく正面から迎え撃つ。
 リング中央でがっしり組み合うが、来島のパワーでも祐希子は崩れない。それでも無理やり押し込むと、ロープに振ってショルダータックル!さらに自らロープに走り、祐希子の起き上がりざまにもう一度タックルを狙う。が、今度は祐希子がカウンターのドロップキックで迎え撃つ。
 来島が力任せのボディスラムで叩きつければ、祐希子はアームホイップで投げ飛ばす。来島のチョップには、エルボーで反撃する祐希子。オーソドックスながらも一進一退の攻防が続く。
「俺のパワーに負けてねえ。いつもカオスや市ヶ谷とやり合ってるのは伊達じゃねえってことか。それに…」
 直接ぶつかってみて、来島には祐希子の強さの一端を知ることとなる。
「技の全部が無駄なく効きやがる。」
 いかなる技も的確な箇所に完璧なタイミングで繰り出すことによって、十の力を十、相手にぶつけることができる。基本と呼ばれる技でも、きちんと繰り出せば必殺技になり得るのである。

「まったく、カオスや市ヶ谷と変わんないパワーじゃない。いや、むしろ…」
 一方、祐希子も来島の力に驚かされていた。
「突破力だけで言ったら、恵理の方がハンパないわ。」
 余計な策のない、すべてが必殺の勢いで繰り出されるだけに、受ける方のダメージも大きい。
「でも、恵理のことだから最後はラリアートで決めに来るはず。だったら!」
 
 祐希子の攻撃が来島の左ヒジに集中する。キーロック、腕ひしぎ逆十字とじわじわとダメージを与えていく。必死でロープに逃げる来島に声援が飛ぶ。
「やっぱり俺の狙いはバレバレか。でもな、俺だって考えがないわけじゃないんだ!。」
 来島の反撃。祐希子の体をサイドに抱えあげると、膝の上に腰を叩きつける。
「アアッ!」
 予期せぬバックブリーカーに祐希子の悲鳴が上がる。
 さらに逆エビ固め、コブラツイストと力まかせに圧力をかける。
 来島の狙いは祐希子の腰であった。腰にダメージを与えることで、祐希子の得意とする飛び技、投げ技の起点を潰そうとしているのだ。
 ようやくロープブレイクするものの、祐希子の動きが鈍る。

「なるほど、考えたわね…。」
 初めて受ける腰への集中攻撃に、祐希子の表情がゆがむ。それでも、
「楽しい!恵理との戦いが楽しくってたまらない!」
 悦びに笑顔がこぼれてしまう。見ると、来島も笑顔だ。
「あの頃も、こんな感じだったっけ。」

「あれだけ痛めつけても、まだ笑ってやがる。」
 痛む左腕を押さえながら、来島は祐希子を伺う。
「そういや、昔もこんな調子だったな。俺たち。」

 朝から晩まで、二人で延々とスパーリングを行っていた新人時代。飽きることなく、ただプロレスを楽しんでいたあの頃。年月が過ぎても、二人の思いに変わりはなかった。
「まだまだ、勝負はこれからよ!」
「ああ、そう簡単に終わらせてたまるかよ!」
 来島は祐希子の腰。祐希子は来島の左腕。狙いを絞った攻防が続く。お互いダメージが大きく、我慢比べの状態となっていた。

 動いたのは来島だった。フロントから組み合うと、祐希子を持ち上げカナディアンバックブリーカーに捕らえる。
「ギブアップ?」
「ノー!」
 激しく揺するが、祐希子からギブアップの気配はない。
「だったら!」
 今度は前方に祐希子を叩きつける!カナディアンハンマーだ。
 そのままフォールに入るが、カウント2で返す。
「もう一度!」
 ダメージの大きい祐希子を再び抱えあげようとするが、祐希子は持ち上げられた勢いを利用するとバックへ飛び降り、延髄切りで反撃!倒れる来島を今度は祐希子がフォールするが、カウント2。
 さらに、全体重を乗せたジャンピングネックブリーカーで攻勢をかけるが、来島も気力で返すと。パワースラムで反撃する。
 再び腰にダメージを受けた祐希子を、パワーボムで仕留めようと高々と持ち上げる。
「させるか!」
 だが、祐希子は来島の頭部にヒジを何度も打ちつけロックを外すと、痛む腰もかまわずフランケンシュタイナーで逆に投げつける!
「なっ!?」
 ダメージの深さに起き上がれない来島。さらに、その場所はコーナー近くである。
「おおおおおおっ!」
 雄たけびを上げると祐希子はコーナーへと上がる。決着の時迫る!会場から大声援が飛ぶ。
「決めろー!祐希子!!」
「立てー!来島!!」
 祐希子だけでない、来島への応援に、場内が揺れる。
「くっ、やられたぜ…。」
 ようやく目を開いた来島。まぶしいライトの光がかき消される。
「がはあっ!!」
 直後、衝撃が全身を襲う。祐希子の必殺技、ムーンサルトプレスッ!。
 すかさず、フォールに入る。来島の体は動かない。
「ワンッ!」
(効いた…これがあいつのムーンサルトか…。)
「ツゥーッ!」
(だけどな…俺は…俺は…。)
「ス…」
(負けるわけにはいかねえんだよっ!)
「ダアッ!!」
 ギリギリ、まさにギリギリのカウント2.9で来島の肩が上がる。
「おおおおおおッ!!!」
 大興奮の観客。足踏みが地鳴りとなって会場を揺るがす。
 祐希子の目が驚きに見開かれる。ここにきて大技を返されたショックは大きい。
「もう、俺は…。」
 起き上がった来島は、祐希子の腰にヒジを落とす。たまらず膝をつく祐希子の背後のロープに向かって走り出す。
「昔の俺には…。」
 祐希子は立ち上がるものの、来島の姿を見失う。一瞬、棒立ちになった背後から来島が迫る。
「戻らねえっ!!」
 振り向く祐希子。瞬間、来島の左腕が激突する!まさにナパームラリアート!爆発のような衝撃音とともに、祐希子の体が半回転し、頭からリングに落ちる。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
 咆哮。直後、カバーに入る。
「ワンッ!」
(祐希子は動かねえ…俺の…勝ちだ…!)
「ツウーッ!」
(早く!早くカウントしろっ!)
「ス…ッ!」
(どうした!?カウントは?ゴングは?俺の勝ちだろ!?)
 と、自分の体が持ち上げられる感覚に襲われる。
(なんだ、何が起こっている?)
 観客席が随分と低く見える。次の瞬間、目の前を光が流れ、
 激しい衝撃が後頭部に走った。
「ワンッ!」
(あれっ?なんでまたカウントしてるんだ?)
「ツウゥーッ!!」
(まさか!俺っ!?)
 慌てて体を揺するが、腕もロックされていることに気付く。
(動けねえっ!)
「スリイィーーッ!!!」

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