お昼の劇場「女豹の蜜」第2回
肌を合わせた者の運命をを狂わせる魔性の女豹、パンサー理沙子。
最愛のパートナー、ブレード上原(上原今日子)の突然の失踪。
乾いた心を潤す新たなパートナー、ミミ吉原(吉原泉)。
敵対することでしか通じ合えない存在、ガルム小鳥遊(小鳥遊薫)。
彼女たちの運命の歯車は回り続ける…。
(この物語はダイジェストでお送りします。)
***
ブレード上原の失踪から数年。新女全体を揺るがす大きなうねりが発生した。
マイティ祐希子ら新世代による革命軍の結成である。若き天使たちの力はついに時代を動かす。
パンサー理沙子とマイティ祐希子による頂上決戦。死闘の末、理沙子は力尽き、長年守り続けたベルトを失うことになる。
女王の座から転落した理沙子ではあったが、悔しさよりも安堵感の方が大きかった。
「これからはあのコたちの時代。私もこれで落ち着いて…。」
新女のエースでなくなった今、上原を探すことができる。そう決めていた理沙子であったが、時代のスピードはそんな余裕を与えてはくれなかった。
祐希子たち新世代軍は世界チャンピオンを目指すべく、海外へと飛び立ってしまったのだ。結局、理沙子は新女のリングを守り続けることとなる。
満たされぬ心と身体をパートナーの吉原、抗争相手のガルムに委ねる日々が続く…。
さらに月日は流れ、マイティ祐希子がIWWF世界チャンピオンとなり凱旋帰国する。その1ヵ月後、失踪していた上原が帰国するとの情報が新女に流れる。
メキシコAACのチャンピオン、エム=サンドとして君臨していた上原だったが、祐希子に敗れたことによってマスクを脱ぎ、メキシコを離れることになったのだ。
上原帰国の報に盛り上がる新女の選手たち。特に理沙子の喜びようときたら、まるで少女のように泣きじゃくり、周りの者を驚かせた。
「今日子が帰ってくる…っ。今日子が、今日子が…っ。」
新女は上原の歓迎ムードに包まれていた。
…ただ一人を除いて。
帰国したものの、上原には行くあてがなかった。無断で飛び出した新女に対して、どんな顔で侘びに行けばいいのか。いや、新女に対してはどのような処罰を受ける覚悟はあった。ただ、上原の心にのしかかるのは理沙子の姿であった。
「あいつに…何て言えばいいんだ…。」
途方に暮れつつも、上原の足は新女の事務所へと向かう。
「どこに行くつもりですか?上原さん。」
事務所の信号一つ挟んだ公園。上原はトレーニング着姿の女性に声を掛けられる。
吉原である。
「今さら理沙子さんに何の用です?」
上原は答えられない。ただ、理沙子の姿を求めていただけなのだから。
「あなたがいなくなって、どれだけ彼女が傷ついたか分かっているんですか?」
静かな口調だが、怒りがビリビリと伝わってくる。
(そうか、彼女がミミ吉原…)
祐希子から理沙子の現パートナーが吉原であることは聞いていた。吉原が現れてから理沙子に元気が戻ったことも(もっとも祐希子は鈍感なので、吉原の特別な感情には気付いていなかったが)。
「なぜ何も答えないんです。あなたのせいで理沙子さんは、理沙子さんはあんなに苦しんで…!」
吉原の苛立ちが強くなる。
「君に言う必要はない。」
「ふざけるな!」
静かな上原の答えに、吉原がキレる。
上原は引き下がるしかなかった。
吉原の言葉、怒りこそが、己の罪の重さに他ならないからだ。それに…、
「彼女がついていてくれるのなら…。」
自分は身を引くより他にない。
上原は新女に、理沙子に背を向け、運命の荒波に再び身を投げ出すのだった。
(つづく)