お昼の劇場「女豹の蜜」第7回
残した者、
残された者、
痛みを分かち合うことなど、できはしない。
(この物語はダイジェストでお送りします。)
***
「営業活動だと…?」
突然の侵入者、ガルム小鳥遊の言葉に上原は眉をひそめる。
「そうさ。来月、旗揚げ興行だと聞いてね。対戦相手の売り込みってわけさ。」
薄ら笑いを浮かべる小鳥遊に真剣さは感じられない。
「ウチは新人ばかりなんでね。お前の相手ができる選手はいないんだ。帰ってくれ。」
小鳥遊の横柄な態度に、上原は目を合わせることなく答える。
「いるじゃないか、そこに。」
構わず、小鳥遊は上原を指差す。
「ブレード上原。アンタならアタシの相手が務まるだろうさ。」
だが、上原は挑発には乗らない。
「あいにく、私の相手はすでにAACから呼んでいる。お前の出る幕はない。」
くくく…と小鳥遊は腹の底から笑う。
「そうだな、パンサー理沙子の本気すら引き出せずに逃げたアンタだ。アタシに勝てるわきゃないか。」
理沙子の名に反応する上原。
「帰ってきたかと思えば、女々しく理沙子の側で新団体なんか作りやがって。自分好みの女囲ってハーレム気取りか?それで振られてりゃ世話ねえな!」
「黙れ!」
たまらずリングに上がる上原。頭に血が上りやすい性格は変わっていない。
「アタシはオマエのいない間、パンサー理沙子の欲求不満を解消させてやったんだよ。」
「黙れ!黙れ!」
外を眺めると、雨が振り出してきた。雲の様子からして本格的な雨になりそうだ。
「大将、傘持ってなかったな。」
小鳥遊の後輩、オーガ朝比奈はアパートで一人留守番をしていた。
「上原の道場って山ん中だからコンビニもなかったっけ。」
朝比奈は傘を持って玄関の扉に手をかける。
「でも来るなって言ってたし、ガキじゃあるまい、傘持ってお迎えってのもなあ…。」
しばし考えて、
「まあ怒鳴られるのには慣れてるから、いっか。」
扉を開く。
「それにしても…。大将はなんだって…」
パンサー理沙子を気に掛けるのだろうか。
最初にケンカふっかけた相手だし、世代も同じってことで意識するのは分かる。しかし、今の理沙子はセミリタイア状態で、節目の興行に顔見世で出る程度だ。未だ現役バリバリの大将が争う相手ではないし、フリーの自分たちにとっておいしい商売ではない。それなら、東女やWARSといったヒール層の薄い団体で暴れた方がよっぽど儲かる話だ。
「まあ、大将についていくって決めたんだから、いいんだけどな。」
アパートの前に出たところで、朝比奈は背後から呼び止められる。
「えーと、あなたがオーガ朝比奈さんね。」
「ああ?」
面倒臭そうに振り向く。わざわざヒールの自分に声を掛ける物好きもいたものだ。
「誰だあ?アンタ。」
声を掛けたのは、すらりと引き締まった体格の女性であった。朝比奈に睨まれながらも笑顔を崩さない。
(俺を見てもびびらねえ…。それにあの体、同業者か?それにしちゃあ)
見たことのない顔だ。朝比奈は首をひねる。
女性は笑顔のまま、きょろきょろと何かを探している。
「ねえ、小鳥遊はどこ?」
(つづく)