ドラクエⅢ小説 その3「再会、そして別れ」

 セシリアたち一行は、立ちはだかる敵をなぎ倒し、ゾーマの城を目指していた。セシリアはあえて男のフリをし続けた。そうすることによって自分の中にある娘としての弱さを隠そうとしていたのだ。アイリスたちも暗黙の了解で、男として勇者を扱った。

 道中、きんさんがいきなり、
「オレもそろそろ足を洗ってまっとうな道を歩むか。」
 と言って、ダーマの神殿で賢者へと転職。打倒ゾーマへ戦力を上げていった。
 
 そしてゾーマ城。一度は大魔神との戦いに体力を使い果たして撤退したものの、二度目の挑戦では大魔神を倒し、地下のトラップ地帯を切り抜け、ソードイドの執拗な妨害をも打ち破り、目指すゾーマも間近に迫ってきた。
「見て、誰かいるわ。」
 シンシアが地下に架けられた橋の向こうを指差す。
 老いた勇者がたった一人キングヒドラと闘っているではないか。高齢とはいえ、たくましい筋肉、剣の腕前は若い者に勝る実力者であることを示していた。しかし、キングヒドラの激しい攻撃の前に苦戦を強いられている。
「助けに行かなくちゃ!」
 セシリアが老勇者の援護に向かう。
「キサマらに邪魔はさせん。」
 だが、突如現れたモンスターの総攻撃に足止めされてしまう。
「このお!」
 どうにかモンスターの大群を破ったパーティの目に飛び込んだのは、キングヒドラの炎に包まれ倒れる老勇者の姿であった。
 闇へと消えるキングヒドラ。
「しっかりしてください!」
 駆け寄るパーティ。
「!!」
 老勇者の顔を見た瞬間、セシリアにショックが走った。
 しわが増え、白髪まじりとなったが、その精悍な顔つき、立派なあごひげは若い勇者のかすかだが鮮明に記憶に残る、かけがえのない人物のそれと同じであった。
「私の名はオルテガ…。」
 老勇者の口から漏れた言葉に、緊張が走る。
 セシリアは言葉を飲みこんだ。「父さん」と言う言葉を。戦場は父も子もない、ただ戦う者同士の絆、それだけである。
「若い勇者たちよ。もしアリアハンに行くことがあれば、娘のセシリアに伝えてくれ。そう、今年で16になるのだろうか…もう10年も会っていないが…。ゾーマを倒すことができなかったと。お前を守ってやれなくてすまなかったと…伝えてくれ。」
 目も見えなくなっているのであろうか、10年の歳月のせいであろうか。自分の娘が目の前にいるのに気付いていなかった。
「あぁ、もう一度、セシリアに会いたかった。妻に似てさぞかし愛らしい娘になっていることだろう…。この目であいつの幸せな笑顔、そして花嫁姿が見たかった…。」
 何も見えず、何も聞こえていないのだろう。目を見開き、視線は宙を泳いでいた。
 セシリアも、もう堪えられなくなっていた。父への敬慕、名を呼び、その胸にすがりつきたい衝動。もはや勇者ではいられなかった。
「父さん!」
 オルテガの娘セシリアの言葉、いや心の叫びが響いた。十年に渡るすべての想いが、この一言に凝縮されていた。
 笑った?
 何も届かないはずのオルテガの顔に笑みが浮かんだ。叫びが聞こえたのだろうか。それとも心が通じたのだろうか。
「死んじゃやだ!死んじゃいやだよ!死なないでお父さん!」
 六歳の子供に帰ったかのようになおも叫ぶセシリア。
 父は娘の腕の中で息を引き取った。昔と変わらぬ優しい笑顔を残して…。
 次の瞬間、オルテガの体は跡形もなく消滅してしまった。ザオリクの呪文を使う間もなく。
「フハハハ…。見たか小娘。これがゾーマの力だ。私の力を持ってすればキサマらなど軽くひねり潰せるのだ。ハッハッハッ…。」
 洞窟中にゾーマの笑いが響く。
「お父…さん…。」 
 突然の再会、そして別れに、なす術もなく座り込んでいたセシリアであったが、その目は娘から勇者へと変わっていった。そして立ち上がると、涙をこらえ、顔を上げて叫んだ。
「見てて父さん。ゾーマは、あなたの意思を受け継いだ娘の私、セシリアが必ず倒してみせます!」
 悲しみを乗り越え、勇者は大きく成長した。

***

 →その4へ進む

 ←その2へ戻る

 小説トップに戻る

 トップに戻る