ドラクエⅢ小説 その5「エピローグ」

 一年が過ぎた。

 ゾーマの支配から解放されたアレフガルドは目覚しい発展を遂げた。この吟遊詩人ガライの建てた村もその一つである。
 そのガライの村に一人の大男がやって来た。顔は三十半ばであるが、体つきは若い者にも負けないほどの筋肉がついていた。
(あれはカンダタの親分。)
 少女は男の正体に気付くが、そ知らぬ顔で通り過ぎようとしていた。
「待ちな、ねえちゃん。」
 しかし男はすれ違いざま、少女に声を掛けた。
「な…何かしら…?」
 少女はおずおずと答える。
「う~ん。あんた、前に俺と会わなかったか?」
「い、いえ。知りませんわ。」
 少女はとぼける。
「う~む。どこかで見た顔なんだけどなあ…。」
 男は首をかしげる。
(ふふっ、ちょっとからかってやろうかしら。)
 いたずら心が芽生える。
「あの~。誰かお探しですか?」
「うん?ああ、俺はカンダタと言うものだが、勇者ロトを探しているのだ。」
(やっぱり。)
 少女の口元がにっとなった。
「実は俺も勇者と同じく、空の上から来た者なのだ。」
「えぇ、そうだったんですか。」
 少女はカンダタに合わせる。
「俺は空の上の世界では大盗賊のボスだったのだ。そこであの勇者と知り合ったわけよ。」
「盗賊…って、今もですか…?」
「いや、今ではもう足を洗ってカタギの世界に身を置いている。話を戻そう。俺はあの勇者と二度戦ったことがあるのだ。あいつは腕の立つ男でなあ。これまで無敗だった俺も全然歯が立たなかった。その後、アイツが気になって、こうしてアレフガルド中を捜し回っているわけだ。知らないかなあ…どこに行ったか。」
(ふふふっ。目の前にいるのに。)
 吹き出しそうになるのを堪えて、少女はわざとらしく尋ねた。
「で、私、その勇者ロト様に似ているのですか?」
「そ、そうなんだよ。あの勇者によく似てるんだよなあ、あんた。でも、勇者は男だったしなあ…。」
 なおも首をひねるカンダタ。その姿がなんとも可愛らしく少女には思えた。
(この人なら本当のこと話してもいいかな…。)
 くすっと笑うと、カンダタの腕を抱えて、
「ねえ、私セシリアって言うの。こんな所で立ち話もなんだし、どこかお店に行きましょ。私、親分の冒険話が聞きたいな。」
「お、おい…。う、うむ、そんなに言うなら話してやってもいいが…。」
 若い娘に誘われれば、嫌とは言えなかった。
(俺もまんざらじゃないかな…。)
 などとカンダタは得意になる。
(私、やっぱりファザコンなのかなぁ…。)
 セシリアはカンダタの腕を引きながら、そんなことを考えていた。

 二人の姿は村の人だかりに紛れ、見えなくなった。

(終わり)

***

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